TALK ROOM #03
YARN HOME
27.Sep.2022
YARN HOMEのデザイナー荒川は、2022年夏、広島県は福山市鞆町にある「NIPPONIA鞆 港町」(https://nipponia-tomo.jp/)を訪ねました。こちらでは、YARN HOMEのベッドリネンやタオルなどファブリックアイテムを客室に設えていただいており、家守である鳥井践(せん)さん、千晴さんご夫婦との TALK ROOM を実現させたかったのです。
町に点在する「空き家」をまるごと一軒「客室」として貸し出す「NIPPONIA鞆 港町」を営むお二人には、「あるものを生かす」「地元の人とのつながりを大切にする」など、大事にしている「価値観」があります。宿とものづくりメーカー。ビジネスの形は異なりますが、「大切に紡いでいきたい価値観」は共通している三人が、時間を忘れて語り合います。
ー 荒川
貴重な機会をありがとうございます。今回はお二人に、「NIPPONIA 鞆 港町」という宿を運営していく上で大切にされている「価値観」についてお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。
ー 践さん・千晴さん
ようこそお越しくださいました。YARN HOMEのファブリックはお部屋でも、プライベートでもいつも大切に使わせていただいています。今日は荒川さんとゆっくりお話できることを楽しみにしていました。
右から践さん、千晴さん、デザイナーの荒川
ー 荒川
ありがとうございます。お二人との出会いは宿をオープンされる前だったと記憶しています。しばしばYARN HOMEへお問い合わせをいただくことがあるのですが、千晴さんのメールにある言葉からは想いが伝わってきて、すぐにお会いしたいと思いました。
ー 千晴さん
きっとたくさんの方から依頼のメールが届いているでしょうから、変な人だと思われないように(笑)、想いをしたためました。まさか荒川さんが直接、会いに来てくださるとは思わなくて、びっくりしました。
ー 荒川
気になったらすぐ会いに行くんですよね、私(笑)。
ー 千晴さん
もともと宿で使えるベッドリネンをずっと探していました。そんなとき一人のスタッフが「YARN HOME」というブランドがあると教えてくれて。福山市の篠原テキスタイルさんが織る「BINGO」というシリーズを見た瞬間、「これだ!」と確信しました。宿の暖簾やルームウェアも篠原さんの生地であつらえていたのでご縁を感じたんです。ふつう宿泊施設では、真っ白でパリッとした質感の業務用リネンを使うのでしょうけれど、せっかく揃えるなら「地元で作られた長く使えるもの」がいいと思ったんです。
ー 荒川
実際にお部屋で使われているところを拝見させていただきましたが、目の前に広がる海の景色と馴染んでいて、とても嬉しく思いました。今治で織っている「IYO」のタオルも使ってくださっていますね。この瀬戸内で仕立てたものが揃う喜びがあります。
ー 千晴さん
リネンやタオルはすべてご近所にある「田島クリーニング店」でクリーニングしてもらっているんですよ。ご主人の田島さんは80代の方で、「染み抜きは絶対に負けない!」という誇りを持っていて、いつも本当に綺麗にしてくださいます。タオルもふわふわで戻ってきます。トイレットペーパーや雑貨を配達してくださる方も、地域の日用品店です。便利かもしれませんが、ネットスーパーなどは一切、利用していないんです。
この日は田島クリーニング店の奥様が丁寧にアイロンをかけてくださっていました。
ー 荒川
地元との協業、とっても素敵な試みですね。先ほどフロントでチェックインしたあと、こちらのお部屋まで案内してくださった方も、地元の方ですよね。地形や歴史など、この町に関するお話を聞きながらここまで歩いてきました。人と人とのつながりをすごく大切にされているんだなぁと改めて感動したところです。
ー 践さん
客室まで案内してくれるのは、檀上さんと、通堂さん。「鞆さんぽ」の案内人です。実はここに来るまで私も妻も、「鞆の浦ってどこですか?」という状態だったんです。実際に移住してからは風景も素晴らしいのですが、一番の魅力はここで暮らす「人」だと思っていて。一般的にシステム化された建物の中だけ完結するような宿ではなくって、「人の魅力が伝わる宿」をやりたいと思ったんです。
この日は檀上さんと一緒に「鞆さんぽ」を楽しませていただきました。
ー 千晴さん
鞆の人は、良い意味でクセが強い!個性があって、世話好きな方も多い。もちろん、宿を運営する当社の代表も含めて、オープン前には地域の一軒、一軒に挨拶してまわりました。そしてご近所のみなさんには “私たちから” 話かけるよう心がけました。よそから来た人間への警戒心は多少なりともあったと思いますが、本当に良くしていただきありがたいです。
ー 荒川
地元のみなさんもNIPPONIAの存在を喜んでいらっしゃるのではないですか?
ー 千晴さん
そうですね。「昨日、宿に人がおったね」「お部屋まで案内してあげたよ」とか、ご飯屋さんの店主が「宿泊者の方が食べに来てくれたよ」と声をかけてくれます。いらっしゃった方が鞆の町をまるごと楽しんでくれていることを、町のみなさんも嬉しく思ってくださっているようです。
ー 荒川
千晴さんと一緒に鞆町を町歩きしていたら、いろんな方が「これ食べて行って」と声をかけてくれて。私もみなさんの優しさにすっかり甘えてしまいましたね。お昼ごはんを食べていなかったのですが、帰るころにはお腹と心がすっかり満たされていました。
山好商店のお母さん。山好商店では鮮魚や魚などのお惣菜の販売もしています。
地元のお母さんたち。漁で獲れた魚などをここで捌いて、みんなでお惣菜を作って販売しています。
ー 千晴さん
優しい方が多いですね。「食べるものある?」っておかずを持ってきてくれたり、夏はいただきもののトマトやきゅうりで溢れたり(笑)。1日家を空けていたら、「大丈夫?」って心配もしてくれる。ご近所同士、互いをケアしている感覚があります。
ー 践さん
鞆は歴史が深いまちなので、錨(いかり)を作る技術である「鍛造(たんぞう)体験」や、漁師さん直伝の「釣り体験」、鞆の浦に代々伝わる特有のお酒「保命酒(ほうめいしゅ)の蔵ツアー」なども、地元の方の協力で実現できています。
ー 荒川
お部屋に生けられたお花も地元の方が?
ー 千晴さん
はい。ボランティアでご近所の方が毎週、生けにきてくださっているんですよ。
ー 践さん
清掃スタッフの方も地元の方です。私たちは、現地の雇用を生み出すことも大切にしているんです。
ー 荒川
YARN HOMEでは広島を拠点に、日本全国の素晴らしい技術でものづくりを行っているのですが。身近な地元で「いいものを見つける」というのはとても大切な視点だと思います。遠くに憧れを抱くより、近くの “そこ” にある幸せを発掘する方が豊かなんじゃないかと。
ー 践さん
外からやってきた私たちからすると、鞆は魅力だらけなんですよね。ただ、なかの人はそれを魅力と思っていなかったり、その伝え方がわからない。私たちがその魅力を外に伝えるお手伝いができれば、と思います。
ー 千晴さん
鞆の浦はかつて「潮待ちの港」として栄えていたそうです。瀬戸内海のちょうど真ん中で、潮の満ち引きが船の動力の一つだった帆船の時代に、潮の流れが変わるのを待つ人のための宿が多くありました。一時期は人口1万人ほどの町だったようですが、今は3400人程度。今ある大切な暮らしを100年後も残せたらいいなと思っています。
ー 荒川
NIPPONIAが、鞆町への移住者を増やす手助けになっているのではないですか?
ー 千晴さん
私たちが知る限りでは、2組が東京から移住して来られました。移住先を探す際の宿泊先として、町での暮らしを疑似体験してもらえたらいいですよね。
ー 践さん
鞆町の人口を増やすことも私たちのミッションなので、移住者を、関係人口を増やしていきたいという思いがあります。いまは使われていない民家を再生して移住者のための住居にするプロジェクトも行っています。
後編につづく。